4月8日(火) くもり ニューオリンズ(LA)→スライデル(LA)
夕べはアイリーン、デイビッドと彼女の家の裏庭で、焚き火を囲んでバイオディーゼル談義に花が咲いた。今朝、デイビッドが僕を車に乗せてハリケーンカトリーナの後、マクドナルドがハリケーン対策にディーゼルジェネレーターを設置したり、新しい廃油システムなどを考案しているなど、いろいろ説明して案内してくれた。アイリーンの家からさほど離れていないダウンタウンだが約2年半経っても大きなスーパーやKFCなど今だ閉鎖されたままの状態だった。また、ショップの外壁についた水の後がハリケーンの凄さを物語っていた。家にもどった後、地球の将来や新エネルギーについてデイビッドと話が沸いた。彼の次から次と出てくるアイディアはすごいものだった。これから彼がどんなことをしていくのか、楽しみだ。アイリーン達は、今作業場の引越し中で何もあげられないからと、スライデルという近くの町に住んでいるBDF生産者の友人、ハリケーンカトリーナの被害地でグリーンなビルディングを建てている場所を教えてくれた。(俳優のブラッド・ピットが作った”Make it right”という団体と協力している、グローバルグリーンという団体が進めているプロジェクトだ。) 彼女自身、ニューヨーク出身なのだが、カトリーナの後、復興を環境によいやり方で実行しようという運動があることを知り、引っ越してきたのだという。その建築現場でディーゼル車に乗っている労働者たちと知り合い、彼らがバイオディーゼルを使いたいのに手に入らないというので、この世界(!?)に足を踏み入れた。
9thワードと呼ばれる地域は、特に被害がひどかったことで知られる。そこにグリーンな家を作っていると聞き、案内してくれるひとがいるかわからないと言われたけれど、取りあえず見に行ってみることにした。個人のプライベートな家を見て歩くのは気が引ける。NPOの団体のプロジェクトなのだから、行けば何かわかるだろうという算段だった。
サイトに着くとプロジェクトのバナーが張ってあり、屋根屋が一段落したらしくちょうど建物の外で荷物を積み込んでいた。様子と聞くと、中にブロンドの女性がいて、彼女がここのスポークスパーソンだから聞いてみるようにと促された。Global Green ニューオリンズオフィス・ディレクターのベスさんは、ミズーリ出身の元弁護士さんだ。大学を出てDCへ行き弁護士になる、そう思っていたのにニューオリンズの魅力にとりつかれそのまま居ついてしまった。弁護士になって15年ほど経った時、カトリーナが襲ってきた。一時避難を終えて帰った彼女は、市の復興のため何かをしたいと思い、方向転換をしたという。
今彼女が取り組んでいるプロジェクトは、Holy Cross Projectというもので、プラッド・ピットが設立した「メイク・イット・ライト基金(MIR)」、「ホームデポ基金」の協力で、9thワードという地域の低所得者を対象とした、家屋再建をグリーンビルディングでしようという試みだ。MIRは、2006年デザインコンペを主催して、この辺りにふさわしいグリーンな家のデザインに賞をおくり、それをベースに建築工事をすすめてきた。5件の個別住宅、23家族が入居できるアパートコンプレックスとコミュニティセンターが、この一角に建てられる予定だという。5月15日のグランドオープンを目標に、今工事が着々と進んでいるところだ。「緊急時という感覚がやっと過ぎ、計画をたてるだけの心の余裕ができたのが一年前、最近になってやっとみんなの気持ちが明るい方向へ向き始めたところです。峠は越えたおいう感じ。」とベスさんは語った。
そろそろオイルチェンジの時期が来た。バスコファイブは、アメリカでは販売されていないランドクルーザーのディーゼル車だ。ロスのように時間がないので、フィルターの交換はあきらめオイルだけを交換しようと決めた。ニューオリンズにある、予約なしでも受け付けてくれる修理の店に行った。随分待って、まだ終わらないのでよく聞いてみると「あの車の重量はどのくらいです?重くてうちの自動ジャッキじゃ、持ち上がらないよ。」と言われてしまった。廃油、燃料、ジェリー缶に入れてある廃油を合わせると、車の重量は3.5トンはくだらない。フツウの車より、約1トンの重量オーバーだ。諦めて、途中でトヨタのディーラーを探すことにして、ニューオリンズを後にした。
東へほんの数十キロのスライデルは、小さな南部の田舎町だ。そこにゴードンというアクティビストが住んでいて、バイオディーゼルを作っている。カトリーナのせいで建設途中の家が壊れてしまった土地を借りて、BDFを作っている。カトリーナがあってからニューオリンズに住み着いた一人だ。当時彼はVeterans for Peaceという元兵士の反戦運動をやっていて、テキサスにいた。カトリーナのことを聞き、いてもたってもいられずニュースの入った翌日ここへやってきた。救急隊員として軍隊などで働いた経験を生かして、できることから始めたという。もちろん町に入ることはできなかったので、ここの土地の所有者とかけあって借りることができ、テキサスから持ち帰った道具や物資を使って、復興作業の手伝いをしながらブログで毎日ニューオリンズの様子を報告した。そこへ友人でドキュメンタリー映像作家・活動家のフラックスがやってきて加わった。
そのうち、マイケル・モーアという革新派のドキュメンタリー映画の製作者がこれに気づき、彼の援助もあってかなりの資金が集まり、250人のボランティアをかかえる大きな復興援助グループへと発展した。ここにキャンプしバスで町まで行って作業をする日々を過ごしたのだそうだ。非難が解除されてボランティアが市内に泊まって作業できるようになり、スライデルのこの土地は、週末に彼らが心を体を休める保養地へとその役目を変えた。そこでゴードンも、前から気になっていたバイオディーゼルの精製を本格的に始めたのだそうだ。アイリーンの会社が35軒のレストランから回収する廃油を引き取り、燃料を精製する。まだ一週間に500ガロンあまり(約2000L)の生産だが、グリセリンの処理システムが整ったら、もう少し量を増やしたいとはなしてくれた。
「どこへ行っても、みんなひとつなのだと気づいて欲しい。そうしたら、地球はもっと住みやすい場所になるはずさ。」「ビデオに撮られるとわかっていたら今朝髭をそったのに。」アンダーグラウンドの一線で生きてきた人の厳しさとやさしさをたたえる、魅力的な笑顔だった。
廃油回収量 20L
メタノール 20L
KOH 2.8kg
お世話になった人たち:アイリーン、デイビッド、ベス、ジーン、ゴードン、フラックス
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