8月24日(日) 晴れ 34℃
やっと、キエフを出発する日がきた。ユースケ達はキエフにおよそ2週間ほど滞在していたことになる。約200リットルほどの油を集めてようやく出発することができた。朝、8時からアパートの荷物を片付け、車とトレーラーに荷物を積み込み始める。国境の税関で問題がおこらないように整理してパッキングする。(特にメタノールタンクにはビニール袋をかけ、その上にキッチンペーパーや水のボトルを載せたり、テントなど荷物をごちゃごちゃ積む)
午前11時、アパートを出発。東に向かって片側3から4車線ある幹線道路を走る。途中北東に向かうあたりから2車線くらいの道になり、交通量も減ってきた。途中、ひまわり畑があったので路肩に車を停めて,撮影がてら小休止する。キエフからロシアに向かう幹線道路なので国境まで楽勝かと思いきや、あと150キロほどで国境というところでポリスが立ちはだかり、道を封鎖していた。トラックや車などが数台止まっていてなにごとかと思いきや、どうもこの先の道路が工事中で通過できないということで迂回しなければならないというのだ。
しかたなく細い田舎道を北上するが、道が悪くスピードが出せない。また、GPSで道を見るとかなり北上してから迂回しなければならないようで燃料が心配だ。途中の村で道路の状況について尋ねるともう一つ北にロシアに抜けるルートがあるのでそちらに行った方がいいという話も聞く。しかし、迂回した車はみな最初のルートにもどっているようなので、どちらに行くべきが迷う。北に上がってしまうとモスクワまで遠回りになってしまうので、できたら元の道にもどりたいところだ。バスの運転手や地元の車のドラバーに聞いて情報を収集するが、いまいちはっきりしない。
ロシアナンバーの車がけっこう反対方向からやってくるのと,迂回した車が元の道へ行く様なので思い切ってそちらに行く事にする。燃料の余裕がないのでミスは許されない。
線路を越えるとやっと幹線道路にもどることができた。工事中だが,結構車が往来している。走れそうだ。よかった。しかし、しばらくいくと今度は工事用のローリーが道を塞ぐ。1人の男性が、ここは通れないから左へ行けという。しかたなく指示にしたがって北上するがGPSをみても迂回する道がないようだ。困ったなと思って立ち止まっているとロシア側から来た車がやはり、さっきの男の指示でこちらに迂回させられこっちにやってくるのが見えた。その車を停めて、ロシア側への道の状態を聞くとここから先は問題なく通過できるという。そうか、走行可能ならなぜ迂回させるのか?!
どちらにしてもロシアから来た青年と情報交換し、お互いにやはり先ほどの道にもどろうということになり、Uターンする。ロシアの青年が先ほどの分岐で、例の男性と話をしている隙にこちらはロシア側へ左折して、さっさと元の道にもどる。
道は快適に延びていて、国境までこのまま行けるかと思っていると、そうはいかない。その道は工事中で全面通行止めになってしまう。路肩のダート道がかろうじて走れそうだが,土のフカフカな上かなり傾斜がきつい。向こうから来る車はほぼ30度ほど傾斜した悪路をなんとか走ってくる。車が横転しそうなくらい傾く場所がある。しかし、このルートしかこの先道がない。しかたなく覚悟を決める。しかし、この傾斜だとトレーラーが傾きすぎてねじれて転がりそうだ。一か八か、やることにする。ここでひっくり返ればすべては終わるかもしれない。
ダートに入ってみると溝が掘れていて思ったより右に傾く。屋根にも油があり、重心が高いし,車内の右側には70キロの発電機など200キロ以上の重さの荷物が積んであるのでもともと右に重心があり、さらに右に傾いてる感じがする。しまったと思ったが行くしかない。ゆっくり走っているとスタックしそうなフカフカな道なためある程度アクセルを踏んで行かなければならない。しかし、一瞬砂につかまりそうになったがなんとか前進していく。トレーラーも左側車輪が持ち上がり,横転しそうだ。こんなに大変な道はアフリカでも経験したことがない。なぜウクライナでこんなに大変なことになるのだろうか、とぶつぶつつぶやきながらなんとか魔の500メートルをクリアすることができた。ここがもしかすると今回の地球一周で最も道が悪い場所なのかもしれない。とにかくよくこの悪路をトレーラーを引いて通れたものだ。
しばらくすると国境の14キロ手前でまたもや工事中のため道が通れなくなっていた。ポリスに止められて違う国境ルートを勧められるが、モスクワまで行くには遠すぎる。燃料が足らないので森の中のダート道を通り近道をすることにする。最短ルートがわからず困っていると黒いランクルで現れたユーリさんが現れ、僕らのバスコファイブを携帯カメラを出してバチバチ写真を撮り始める。なんとテレビか、新聞で僕らの事を知っているというのだ。彼は、その森を抜ける道を知っているので案内してくれると申し出てくれた。森の迂回路は約10キロほどだが道が悪い。ユーリさんはピカピカの黒塗りのランクルで辛抱強くこちらにあわせて走ってくれた。別れ際に「トヨタ、一番」と言って親指を立ててあえた事を喜んでくれた。彼はトヨタの大ファンだったのだ。
ウクライナの国境に午後6時ころ到着した。着くとすぐに黄色い蛍光色のジャケットを着た若い青年が車の停める位置を誘導して、自賠責保険に加入するようにすすめる。車を停めるとすぐに人だかりの山になった。みなカメラや携帯カメラを出し撮影し始める。どうもテレビのニュースや新聞で読んで、ここを僕らが通過することを知っていたらしい。こんな国境まで僕らのことが有名になっていたようだ。
誘導の青年に連れたられて道の脇にある小屋で自賠責保険の加入手続きをする。3ヶ月の加入で110ユーロだった。自賠責保険の書類を持って,今度は国境へ行く。ウクライナの国境警備隊なのだろうか?こちらに来て、どうも賄賂を払えと言っているらしい。順番待ちの後ろの車に通訳をしてもらうと、係官はどうも賄賂を要求しずらくなって、そのまま通って良いということになった。きっと公然と賄賂を要求できないのだろう。しかし、これだけでは終わらなかった。税関検査では車を停め、係官から荷物を全部下に降ろせと言われる。こちらがロシア語がわからないと知ると「プレゼント」「プレゼント」と連発する。自分一人だけ呼び出され、小さな部屋でお金の話をしてくる。ドルまたはユーロがあるか?と聞いているようだ。部屋の中には若い係官の女性と男性が3人ほどいて、公然と賄賂をだせと言っているようだ。らちがあかないと見ると、わざわざロシア語と英語がわかる旅行者を連れてきて賄賂を払えば、荷物は全部ださなくてもいい。賄賂を払わないと荷物を全部降ろし、お金を払わないと時間がかかるぞという意味のことを通訳させた。なぜ、回りのポーランドやウクライナの人には賄賂を要求しないでこの日本人の僕だけ賄賂を要求するのか?と聞いてみるが、日本人は金があると思うのか、どうもワイロを積まないと先へは進めなさそうだ。
ロシアの入国が大変だとは聞いていたが,ウクライナの出国でこのような賄賂を要求されるとは考えてもいなかった。今までの経験からも入国に手間取っても出国が大変ということは無かったので,ビックリ。賄賂はできたら使いたくなかったのでだいぶ時間を稼いだのだが、しかたなく前もってポケットに用意していたユーロを差し出すことにした。
「プレゼント」と叫んでいた係官が、しばらくしてパスポートを返され、これを入国係官に持って行くように言われる。自分のパスポートを調べるとなんとさきほどの5ユーロが挟まれていた。それをそのまま係官にパスポートごと渡すと、その女性の係官はパスポートに挟まれたユーロを発見し、こちらをみて「これを私にくれたのね?」という顔をしたのでうなずいてみせる。そそくさと彼女はそのユーロをしまい、さっそく手続きに入るがなんとスムースに手続きが進んで行く。入国審査を通り、税関の係官のところへ移動する。そのときも彼女が便宜を計ってくれたが、トレーラーの書類(登録書)がないということで、またストップ。フランスで買った領収書をみせるが登録書がないので時間がかかる。どうもトレーラーを購入するときにはその登録が必要のようだ。購入したときになにも言われなかったのでまったく知らなかった事だ。
ウクライナの国境を出たのは夜の9時。ロシアの時間で午後10時(1時間時差がありタイムを進める)もう真っ暗だ。今日の宿も決まっていない。ウクライナとロシアの国境の中間地点で車を停め、パリのトシさんにいただいたお香を焚くことを思い出した。車にしまってあったお香を取り出し、車と荷物、人を清めこれからの旅が安全にそして、うまく行くように星空の下祈った。
いよいよもっとも難関だと思っていたロシアの国境に入る。覚悟を決めていく。ロシアの国境は人も少なく簡素だった。車を右に寄せて停め、まずパスポートを提出。その後、荷物の検査に移る。トレーラーの荷物をめくり荷物を出せという。トレーラーの後ろの扉をあけろと言われ、扉の留め金がしぶくなかなかあけられないでいるともういいと係官に言われ、今度は車のリヤハッチを開けろという。ハッチをあけるとカモフラージュでいろいろ積んであった荷物が転げ落ち、あまりの乱雑な荷物が詰まっている状態をみて、もういいと言われる。トレーラーは、日本から持ち込んだことにして日本ではトレーラーの登録はいらないといいはると、わかったといってトレーラーと車の書類を税関で作ってくれる。これを持っていれば途中警察に停められても大丈夫だという。親切にもこんな書類を作ってくれるとは。ありがたい。ありがたい。ロシアの国境ではワイロのワの字もでてこず、スムースに越える事ができたので、あれだけ覚悟していたので、なんだか拍子抜けしていまう。これはお香のせいか。または、係官が夜で疲れていたのか。とにかく、ありがたいことにすべてのものを持ち込むことができた。
ロシア国境に1時間半費やす。ロシア国境を越えたのは夜の11時半。このうちトレーラーの書類を作ってくれたり、宿の道を案内してくれるなどに費やした時間を考えると正味一時間でロシア入国手続きは終わったといえる。
国境事務所の係官は、ホテルまでの地図を書いてくれたり、モスクワへのルートを丁寧に教えてくれる。ほんとうにロシアの係官は親切だった。夜12時にホテルに着く。ホテルの代金をユーロで払えないため、近くにあったガソリンスタンドまで行き、両替をする。ホテルの人は国境に両替所があるというが、夜だったせいか、みあたらなかったからだ。$1あたり22ルーブル。1ユーロは34.0だった。300ユーロを10400ルーブルに両替する。
ホテルー”Korimos”一人部屋−600ルーブルで、二人部屋−1000ルーブル(1人、500ルーブル)だった。ホテルの男性から今年、イタリア人がbiodiesel燃料でイタリアからモンゴルまで走った人がいて、このKorimosホテルで泊まったという話を聞く。
走行距離:384km
お世話になった人:Yuryi Suhoruchenko(ランクル乗り)
Vladimyr Alekseevych(国境の係官)
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