ある幼稚園の園長先生がそっとお話を始めました。
それは昭和20年、若かりし園長先生の、ある日のこと……
「きれいな夕焼けだな」飛行機が戦隊を組んで飛んでいく。
その景色が美しくて思わず見とれていると、「なに敵の飛行機見てるんだ!」と怒られてしまいました。
後から知ったのですが、じつはその見とれた飛行機は、釜石への攻撃を終えて帰還する敵軍の飛行機だったのです。夕焼けと思ったのは、釜石が艦砲射撃を受けて燃えている赤い色でした。
昭和20年、太平洋戦争は末期を迎えていました。
製鉄所が攻撃目標となり、釜石はアメリカ海軍や合同部隊の戦艦部隊によって、二度にわたる艦砲射撃を受けたのでした。
若き頃の園長先生は、実家の親たちがどうなったかまったくわからず心配していると、大槌から仙人峠を越えて、お母さんが遠野まで会いにきてくれたのでした。その後、焼け野原になった釜石を見たのです。
「じつはその艦砲射撃を受けた後の釜石の風景よりも、今回の津波の被害の方が、大きいような気がします。艦砲射撃のあとは今より家がまだ残ってい たような気がします。今回は何一つ残ってないんだもの……何ひとつ……」
比べられるものではありません。しかし、無残な戦争のつめ跡よりも、この津波による被害のほうが、さらにおぞましい景色が広がっていたと仰られました。
.
この津波を体験して。園長先生は、お話を続けました。
「じつは私の友人が、今回の津波で無事かどうか確認するのが怖くて、まだ確認しに行っていません。親戚の子供が幼稚園に遊びに来ても、” おうちの人は?” と気軽に聞けないのです」
津波後、「○○ちゃんは?」とある子に聞いたら、「死んだ」と答えました。
「子供はたんたんと答えて、ゲームをしたりと遊んでいますが、相当傷ついていると思う……。こんなことになるなら先に死んだお友達のところに行ったほうが楽だったのかな……」と、先生の目から涙がぽろりと落ちていきました。
そうこうするうち、先生はお昼を食べる間もなく、ガスレンジの交換や大掃除と忙しそうにまたお仕事を始めました。
………………
ご家族を失った方、ご友人を失った方。
今回の震災によって数え切れないほどたくさんの方が傷つき、
悲しみを心の中に抱えています。
それでも笑顔を見せながら、前へ前へと進んでいます。
みんな、必死で前へ進むことで、悲しみや苦しさを払拭しているのかもしれません。
いつも明るく笑顔で私たちを迎えてくれる先生方。
津波による被害から園舎を復活させ、奇跡をご自身で感じながらも
自分ではどうしようもない内に秘めた悲しみが込み上げてきて
ふと涙があふれてしまうのです。
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