シアトルでお披露目

美しい朝陽で1日が始まった。今日はダーティーハンズ・バイオディーゼルコープの協力で地元のバイオディーゼル関係者に僕らのバイオディーゼルカーのお披露目会をすることになっている。天気予報は「軽い雨」だったので、空模様が気になるところだ。

イベントの最初に太鼓の演奏があるので、まずはすぐご近所のお宅に、事情を説明して歩いた。出てこない家もあったけれど、みんな「面白そうじゃない。」と快く承諾してくれた。「イージーゴーイング」な地域だと聞いていたけれど、本当にそんな感じだ。後は何が足りないだろうと確認しているところへ、デザイナーのミキコさんが、目を真っ赤にしながらやってきた。「できましたよ!」今日のために僕らのロゴの入ったパネルを作ってきてくれたのだ。ちょうど目印になる看板がはしかったところだ。こんな素晴らしいパネルを作ってくれて、ほんとうにありがたい!

朝10時、太鼓の勇ましく華やかな音色と共にイベントが始まった。トレジャーハント(日系フリーペーパー)、日本総領事館、ダーティーハンズ(ライルのコープ)らの広報活動のお陰で、まずまずの人出だ。本音を言うと、僕らにとってイベントの大きさは、あまり関係ないことだ。来てくれた方たちとどれだけつながれるか、その方が大切なのだ。でも領事館が頼んでくれた太鼓の演奏がすばらしかったので、来てくれた人達も大満足。近所の人達もなにごとが始まったのかと集まってきて、思ったよりも人が集まってきた。

演奏の後、司会役のライルの紹介で、難波総領事のスピーチ、ダーティーハンズについての紹介、そして僕の挨拶とプロジェクトの紹介、バイオディーセル燃料のプラントの解説へと進んでいった。来ていた人たちは、バイオディーゼルや僕らのプロジェクトにとても興味を持ってくれて、質問も活発に出た。雨もほんの少し頬に当たったような気もするが、支障のない程度で済んでくれた。廃油の集まり具合も順調で、フィルターを通してタンクに注いでもらうのに時間がかかったのに、嫌な顔をする人はだれもいなかった。談笑に花を咲かせ、コープの中を見学。それからもってきた紙にもみなさんのメッセージを書いてもらった。多くのバイオディーゼルのメンバー達と話ができて、このイベントを主催できて本当によかった。ライル、そしてコープのみんさん、領事館の方々、トレジャーハントのみんさん、ありがとうございました。

このコープの敷地というのは、かつては小さなガソリンスタンドだったそうだ。今にも崩れ落ちそうな白い建物は、20世紀初頭に建てられたもので、彫刻家であるトムの工房とバイオライル(ライルのあだ名)のバイオディーゼル精製工場の役割を果たしている。ここには地域に密着した生活があるコープでとても人間の暖かさを感じるところだ。僕たちが作業をしている間にも、多くの組合員たちが次々に廃油を持ち込み給油していった。

給油は手動のポンプで汲み上げる方式だ。文字通り「ダーティーハンズ(汚れた手)」。こんな暖かいバイオディーゼルのコープが日本にもあったらいいのになぁ。

廃油回収量 130L
本日の走行距離 9km

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ライル先生

明日の打ち合わせのため、ライルのコープを訪ねた。手伝いをしてくれることになっている、地元サポーターのケロティさんとKAZUさんにも来てもらう。力強い見方だ。この6ヶ月間ずっと自分のフリーマガジン「トレジャーハント」で我々の記事を掲載してくれ廃油回収のお手伝いをしてくれてきたサチコさんは、ひどい風邪に倒れていて残念ながら同席できなかった。

ライルは学校の先生だっただけあって、イベントへの取り組み方も、できるだけシンプルな方法を考えてくれていた。僕たちの必要なものをすべてわかっていて、自分を押し付けることはしないがリクエストはきちんと表現する。一緒に何かをやるのには、こんな人が一番だ。打ち合わせはスムーズに進行し、ライルの好意でBDF精製の作業もさせてもらえて助かった。また精製についても専門家でもない僕たちの質問にわかりやすく答えてくれるからとても参考になった。

通訳係りのサッチンは、持参した資料だけでは専門用語が確認できず、バンクーバーでかなり苦労してしていたから、ここぞとばかり彼について勉強した。彼女は通訳の仕事もたまにしているが、バイオディーゼル燃料のことや車のテクニカルなことについて専門的な知識はなかったので、毎日が学びだ。しっかりと理解した上で、わかりやすく訳してくれるのとても助かる。ありがとう、サッチン!

ライルは、タイトレーションという廃油の品質テストを詳しく教えてくれ、僕らが今日作ったBDFの出来上がりもチェックしてくれた。昨日の精製でどうも水が混ざっていたような気がして、ちょっと心配だったからちょうどよかった。なんと!結果は反応が十分にできていなくてまだ反応していない廃食油があることがわかった。ライルはちょこちょこっと電卓をはじいて計算すると、「この量の媒体を入れて、もう一回反応させてみたらどうだろう?」と提案してくれた。薬品までくれたので、その場で反応させることにした。

午後はライルと並んでシアトルのバイオディーゼルの一人者、ドクター・ダンを訪ねる予定だった。彼のショップへ行く途中、アヒルのようなおかしな格好をした水陸両用車を見かけた。(写真を撮り損ねて残念!)こんなものが平気の平左で公道を走り、一般の人も何食わぬ顔をしてその隣を歩いている。アメリカのそんな気質は、楽しくていいんじゃないか・・・。

事前調査でひっきりなしに名前が出てきたドクター・ダンの店は、以外にも小さなオフィスと修理工場を兼ねた建物のまえに、ホロのついたタンクがひとつぽつんと立っているだけのものだった。協同組合に毛が生えたような商売さ、と笑って言うけれど、彼の経験と知識を求めて、人が集まってくる。エネルギッシュな47歳は、もともとは車の修理工だったが、1990年からナチュラルガスに関わってきて、バイオ燃料を追求するようになった。この店は登録者が4000人、定期的に給油に寄る客は1800人くらいを抱えている。ちょうど給油に立ち寄ったお客さんにも、数人話を聞くことができた。今日もまた、有意義な一日が暮れてゆく。

廃油回収量 0L
本日の走行距離 50km

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日本領事館へ

夕方、シアトル在住日本総領事館にうかがう。土曜に行なうイベントの顔合わせを兼ねての食事会をセットアップしていただいたのだ。シアトルへ来て数日になるというのに、僕たちはまだダウンタウンへ足を伸ばしていなかった。ダウンタウンの新しいビルが立ち並び、一方通行の多いきらびやかな町の一角のビルに総領事館があった。

総領事にご挨拶をさせていただき、領事のみなさんと外へ出ると、僕たちの車を動かさないほうがよいだろうという気遣いから、レストランまでバンを出してくれた。日本料理の「WANN」ではイベントの主催コープのライル、領事館のスタッフの方、その他雑誌社のかたなども招待されていて、にぎやかな食事会となった。

日本人好みの薄い味付けのその店は、おしゃれで油にまみれた僕たちは少々場違いとも言えなかったけれど、おいしい食事をいただきながら同テーブルになったライルとゆっくり話をできてよかった。領事館の方たちとも顔合わせができて、初めての大きなイベントも地固めができたような気がした。佐野さん、セットアップありがとうございました。

廃油回収量 38L
本日の走行距離 20km

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シアトルアカデミーを訪ねて

シアトルのしっとりした朝にも慣れてきた。午前中は燃料の精製に集中する。宿を提供してくれたエイプリルのお陰で、僕たちは安心して作業に専念できる。

昼からはトムの誘いで彼が教えているシアトルアカデミーの生徒たちにバイオディーゼル燃料で走るバスコファイブを見せに行く。街かどにあるミドルスクール「Seattle Academy of Arts and Sciences」は、スクールバスを100%のバイオディーゼル燃料で走らせている。学校の駐車場を借りてなるべく水平でな場所を探して車を駐車させ、精製作業を開始するためにリヤハッチからプラントを引き出して固定する。かなりの重量なので、特別に作った脚を取り付けて、その下にジョッキをあてて高さを調整する。機械が水平でないと精密機械に負担がかかるので、水準計を使って微調整をする。これから世界一周をする間、できるだけ長くもって欲しいので、僕らは結構気を使って丁寧にセッティングしているつもりだ。三人とも一人でも作業ができるようにしているけれど、お互い暗黙の了解で分担作業を手際よくこなせるようになってきた。

トムはこの学校で彫刻を教えている先生だ。彼がバイオディーゼル燃料を車に入れて走っていることは学校でも有名で生徒の中にもバイオディーゼルに興味を持っている子が多い。高校生ともなると質問やコメントもかなり専門的だった。化学の先生が10名ほどのクラスを引き連れて野外授業に来たり、トムの教え子でバイオディーゼルの弟子というカルドウェルとバートが立ち止まったり、ランチを過ぎても足をとめてくれる人が後を絶たなかった。ヘンリーという生徒は、「車やスタンドのコマーシャル、ディーゼル車やハイブリッド車のデザインをもっとヒップホップな感じにしたら、きっと若い層の使用者がふえるんじゃないかな。」なんてコメントをくれた。

通りの向こうにあるマンションに住んでいるというエドウィンという名の黒人男性がわざわざやってきて声をかけてきた。彼はディスカバリーチャンネルでバイオディーゼルの特集を見て、僕らの車の”Biodiesel” の文字を車体で見つけ、様子を見に来たという。「今やらなくて、いつやるんだ!」と僕たちの旅をこころから応援し、リズム感のある独特の口調でビデオカメラに向かってメッセージを語ってくれた。


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トム・フラッド

カリフォルニア州ロングビーチ生まれ。ワシントン州で育つ。現代彫刻家。高校では車の修理や木工を学んだ。ウエスターン・ワシントン大学で美術を専攻、卒業後現在の妻アリスと共に渡欧。2年間をドイツでは有機農業のコミューンに住んだりアイルランド(彼はアイルランド系である)で絵画や素描を学びながらホテルで働いた。これ以来、二人はパーマカルチャー農業などに興味を持つようになった。

1994年、アメリカ帰国。ワシントン州西部に住みたいと決めていたので、シアトルに落ち着いた。帰国後の一年間に、妊娠し、家を購入し、新しい仕事をはじめたりと大きな転機があったが、1995年までには生活も安定し、彫刻家として工房を構えて活動が始まった。1999年より現在勤めるシアトル・アカデミー・オブ・アート&サイエンスというミドルスクールで、彫刻を教える傍らマドローナ・バイオディーゼル協同組合を主宰。近所の仲間が確実にバイオディーゼルを入手できるよう尽力し、学校でも代替燃料としてのバイオディーゼルについて積極的に教育活動を進めている。趣味は、古い車の収集。

彼の作ったマドローナ(ワシントンに自生する大きな木)の鉄彫刻は、近所の学校からの注文で作ったものだが、なんとも自由奔放で遊び心に富みあたたかい。街角でしっかり根を張っているように見えた。

コープの建物が壊れかかっているので、これを解体してできるだけグリーンな材料と方法で建て直し、クリエイティブで環境コンシャスな人たちの共同生活の場を作ろう、というのがもっかの夢だ。市から工事の許可が今年はじめに出たばかり。人々がもっと理解し合い仲良くする、そんな未来を目指して生きていきたいという。自分のかわいい子供たちのためにもね、と語った。

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ダーティーハンズ・バイオディーゼルコープ

午後2時過ぎ、シアトルへもどりダーティーハンズ・バイオディーゼルコープの責任者、ライルさんと会った。彼のコープは、会員が回収してきた廃油でバイオディーゼルを作って会員達に燃料を配給している草の根的活動をしているところだ。今までメールでやり取りをしてきたが実際に会うのはこれが初めて。北欧系の出身とみられるライルはすらりと背が高く、ちょっとくたびれたフェアアイルのセーターのよく似合う、穏やかな印象の人だった。いかにも手作りの「バイオライルのバイオディーゼルワークショップ」というロゴがついた青いワゴン車を停めると、コープのなかへ案内してくれた。

コープと聞くと日本の生活協同組合を思い出すかも知れないが、彼のコープはバイオディーゼルの協同組合だ。組合員が協力してレストランなどから廃油を集め、ライルがそれを精製して燃料にする。できた燃料は、回収してくる量の割合にあわせて組合員に格安で売られるというシステムを取っている。大手の石油会社がなかなか手を出したがらない背景の中で、アメリカのバイオディーゼル利用者たちは、こうやって供給源を確保している。ライルの話によると、何よりも廃油の確保が難しいということだった。彼は以前科学の教師だったので、今でも学校を回りバイオディーゼルのデモをしたり、ワークショップを主催している。

コープは言ってみればかなりファンキー。彫刻家であるトムの作業場の中に、コープの会員が提供したPro190という精製機がどっしりとかまえており、脇のカウンターにはフラスコやガラスやプラスチックの容器がならべてあり、小学校の理科の実験室を髣髴させる。廃油を回収し、自分の手で井戸のくみ上げポンプのような手動のポンプで給油するから「ダーティーハンズ」という命名なのだと話してくれた。

そうするうちにこのコープの持ち主のトムが現れた。大家のトムはかなりの車狂で、古い日本車やドイツ車を数台持っている。奥さんのものだという緋色のムスタングは、場違いともいえる作業場のなかで、美しく光っていた。内装など少しずつ手を加えて改装したオープンカーで、トムのご自慢だ。

ともあれ僕たちチームは、マドローナというとてもは雰囲気のよい地域がすぐに気に入ってしまった。家に帰り、住宅街の路上で今日回収した廃油の精製にかかる。バンクーバーで一杯にした燃料タンクは、空に近い。シアトルの気温はバイオディーゼルにはやさしいとは決して言えない寒さなので、油が固まりやすくどうしても各行程に時間がかかってしまう。たとえば廃油をフィルターにかけてタンクに移す作業だけでも、通常の3倍も時間がかかってしまう。少しずつ、少しずつ油を注ぐ。新しいステップの前には、タンクを温める。住宅街の道路沿いで夜通し作業をするのは心苦しいが、”We have no choice.” (選択の余地はない。)ひたすら精製あるのみだ。


廃油回収量 102L
本日の走行距離 146km

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タコマのミドルスクール訪問

からっと晴れ渡ったアメリカ初の朝。今日は、タコマのミドルスクールを訪ねることになった。この学校の理科の先生アーミンと奥さんのあやこさんから、学校訪問の依頼を受けたのは今年1月のことだ。学校からも全面的な協力を得て、この旅とバイオディーゼルについての簡単な講演とデモを子供たちの前ですることになった。

タコマまではシアトルから約一時間ほどかかり9時半に学校に着いた。小中学校の授業は時間が短い。ベーカーミドルスクールでは、10時からの3時間目と12時半開始の5時間目の二回、6-7年生数クラス合同約70名ほどが集まる予定だ。プラントをリヤから引き出し準備を始めているとすぐに子供達が集まってきた、心の準備をする間もなくぶっつけ本番で自己紹介から旅の目的、プラントの紹介などを始めた。子供たちは前もって理科の時間にバイオディーゼルについて学んだということで、バスコファイブのプラントを見せ説明を始めると、予想以上に理解していてびっくり。とても興味を示してくれた。廃油を持参した生徒には、順番で廃油タンクに注いでもらう。やっぱり油を直に自分の手で入れるというのはとても楽しそうだった。

図書館に移動してあらかじめ用意しておいたDVDのクリップを見せながら、僕たちの旅について説明したあとQ&Aで、例えば、「言葉も通じない、文化も違う国へ行ったらあなたならどうやって廃食油をあつめるか」、というような問いかけをしてみた。するとすぐに2、3人から答えが返ってくる。アメリカの子供達は自由に発言する子供たちが多いようだ。

「僕だったら、必要最低限な言葉をインターネットで調べてから出かけて行って、カタコトで廃油をくれるよう頼むよ。」「でも、インターネットにつなげないような国へ行ったら、どうするんだい?」「わたしなら、前に使った油を少しだけ残しておきます。それを見せれば、すぐに何が欲しいかわかってくれるような気がする。」等々、なるほどそんな考えもあるのかという意見もあり、とても有意義な時間を過ごす事ができた。

最後に子供たちに、未来のどんな地球に住みたいか、どんな夢を持っているのかなどを日本から持ってきた紙(水を吸わずしわにならない特殊な紙)に絵やメッセージを書いてもらった。これもバイオディーゼルアドベンチャーのプロジェクトの一つだ。最終的には旅の最後にこのメッセージを展示したり、糸でつないで輪にしてプロジェクトの締めくくりを飾りたいと思っている。この旅で沢山の人達に会う事だろう。地球を一周することで一つの輪がつながり、そして多くの人達とつながることができたらどんなに素晴らしいことだろうか。

図書館を出る時、最後まで残っていた一人の女子生徒が何かを言いたげに近づいてきた。そばかすが一面にちりばめられた白い頬をほんのりピンクに染めながら、彼女のちいさな手のひらには金色の折り鶴が乗っていた。「あなたたちの旅の無事を祈ります。すばらしいプロジェクトだと思うから、応援したいの。」といって手渡してくれた。ゴールドの鶴。油の色にも似ているなぁ。そうだバスコファイブの守り神として運転席の前に飾る事にしよう。


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国境越え

午後になって雲が分かれて明るくなってきた。町の北側にあるスタンレー公園をバンクーバーのスタート地に選んだ。トーテムポールの前で何枚かシャッターを切り、三人の記念写真を三脚で撮影。光が出てきてとてもいい感じだ。夕暮れ時もいいだろう・・・。時計を見るともう4時半を回っていた。


僕たちはジャパノイドの朝田さんに言われた通り、商業用トラックの多いほうのボーダー関門からアメリカ入りすることにしていた。自家用車ばかりを扱うゲートより、係員たちの経験が豊富だからだ。案の定みんなのパスポートを差し出すと、番号などをチェックしてからオレンジの紙切れを渡され、右へ回り込んでキャノピーの下に駐車して指示をまつように言われた。

そこの係員たちはリラックスした様子で、バスコファイブに純粋な好奇心を抱いているようだった。建物の中に入ってからも、作ってきたファイルをぱらぱらを見せた旅の主旨を説明すると、審査官はにやっと笑って「へぇー、自分で燃料を作ってねぇ。」「そのジャケット、かっこいいな。」なんて言っている。平静を装いつつも内心緊張していた僕らは、気が抜けてしまった。特に問題も難癖もなく、約30分で入国審査は終わった。

次は税関だ。僕らはカルネという書類を持って旅している。言ってみれば訪ねた各国での入国と出国証明のために判子をもらい、その商品が売り買いなしにその国を通過したことを示す=関税が免除されるというものだ。先日書いたけれど、バンクーバーでこの書類を処理した係員が間違った場所にスタンプを押してしまい、僕としては心配の種でもあったのだが、ここへ来てその間違いが問題となって浮上し、少々面倒なことになった。

国境を越えてからカナダの関税にUターンして仕切りなおし。だが検査官はとても親切で親しみやすく、スタンプの間違いは僕たちの責任ではないと説明する必要もなく理解してくれた。その上「プロジェクト、がんばれよ。」なんて励まされて、三人とも気が抜けてしまうほどだった。

シアトルでは、16日にイベントをすることになっているコープの大家さんの一人、トムと家を提供してくれるエイプリルが待っている。電話で遅れていると連絡を入れると「気をつけて来てくれ。待っているから。」と言ってくれた。コープの近くのマドローナ・エール・ハウスで落ち合う約束をして電話を切ると、急にみんなほっとした。アメリカに入ったぞ!これで旅の心配の種がひとつ減った。

シアトルに入って出口を出た途端、珍しく道に迷ってしまったが、夜9時過ぎやっとトムと会うことができた。いかにも西海岸のアメリカ人のトムは、アイルランド系。イージーゴーイングで情熱を含んだやさしい話し方をする。ビールを一杯飲んでから、長い一日だったので今夜はこのへんにして、これから約一週間お世話になるエイプリルの家へ向かった。ぐっすり眠りたいものだ。

廃油回収量 18.5L
本日の走行距離 285km

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バンクーバー出発

いよいよ国境越えの朝が明けた。何だか落ちつかず早く目が覚めてしまった。昨日も書いたけれど、今回日本を出る前から一番気になっていたのは、この国境越えだ。違法なことは何一つしていないのだからと自分に言い聞かせるが、難癖をつけようと思えばつけられないこともないだろう、そう思うと一抹の不安がよぎる。

9時過ぎジャパノイドに到着した。彼らとも今日でお別れだ。言葉では伝えきれないほど、お世話になった。メカニックの小村さんに簡単な車のチェックまでしていただき、みんなで記念撮影をしてから出発した。

バンクーバーでバイオ燃料を扱うカスケイディアと、その会社が経営しているオートガスというスタンドの名前は、バンクーバーで廃油を集めている際何度か耳にしていた。マネージャーから「バイオ燃料のことなら彼に」と紹介されたカーティスは、いつもはデルタ市のオフィスで働いている。11時半近くオフィスのドアを開けて入っていくと、気さくで早口のカーティスは目を輝かせて出てきた。小雨が降っていたのでジャケットをはおり、プラントの入っている後ろのドアを開けると、更に目の色を変えて「すごいねぇ!気に入った!」と歓声をあげる。「ちょ、ちょっと待ってくれ。バイオディーゼルの技術屋を呼んでくるから。」と言うや否や、ビルの中に消えていく。

バイディーゼルは低温に弱いので(ジェル化してしまう)、冬季は通常のディーゼルを半分混ぜる。(B50)今まで化石燃料を扱ってきた会社が、地球の温暖化や残り少ない石油の行く末を考え、代替燃料や持続可能な消費の仕方に興味を持ち始める。素人から見たらなんとも自然な姿勢だけれど、私腹を肥やしてきた大手の石油会社はその富を諦めることができない。

カーティスに寄れば、彼の会社は他の会社から裏切り者のようなレッテルを貼られ、非難を受けることもあったという。でも彼らは市や州政府と歩み寄り、規制や法律を変える努力をしている。2020年には2007年の数字と比較して、全ての燃料が33%のリニューアブル燃料を含有していなくてはいけないという法律ができるよう努力しているという。そんなことが本当に可能なのか?という問いに彼は胸を張って”Without a doubt.”(疑いの余地なく)と言ってのけた。

現在カスケイディアが経営するスタンドは、カナダ西部に600店。そのうちバイオディーゼルを扱っているのは9店舗のみだ。この法律が通れば、うちだけでも600店舗すべてがバイオ燃料を扱うことになる。頭の回転の速い彼の英語に追いつくのは至難の業だったが、カーティスの情熱の源は紛れもなくとても澄んでいるのは僕にも伝わってきた。「そりゃこれはビジネスだ。儲からなかったら続かない。でも、考えて見てくれ。どうせ金儲けをするのなら、地球や周囲の人たちが得をするようなやり方をしたいとは思わないか?私はねぇ未来を考えると消沈する反面、自分に何ができるだろうと考え始めると、まだまだいろいろあるという気がしてうれしくてしょうがないんだよ。」


帰り際、北米を一年かけて走り人々の意識を高めたいというカナダ人カップルを紹介してくれた。各地に行ってその土地の有力者(市長など)に会い、彼らが作った「地球を守るために私たちができることリスト」の中からひとつの項目を選んでもらい、それをメディアで紹介するという運動を計画している。ぜひ彼らと繋がって欲しいというのだ。

僕らの旅もまた、人々とつながりたいという願いのもとに始まっている。世界へ向けての出発点として選んだバンクーバーの町で、僕らはさまざまなひとたちに出会った。小型車の輸入に力を注ぎバイオ燃料にも興味を持っているジャパノイド、何十年も会っていなかったのに差し入れまでくれて情報集めや廃油回収を熱心にサポートしてくれたタツヤのいとこマスミさん、快く油をくれた清、瀬戸の両すし店、森林伐採と生態系を守るために闘っているアネットやジュディス、そしてエコ燃料の推進をはかる石油会社カスケイディア。みんな努力している。みんな何かをしている。彼らのメッセージを運ぶのも、自分たちの役目の一つなのだと思う。

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バンクーバー最後の夜

サッチンが帰ってすぐ、昨日バンクーバー島で取材を受けたローカルのニュースクリップの録画を見ることができた。驚いたことに僕をなぜが「スポーツキャスター」と間違って紹介していた。しかし、短い時間の中でうまく編集してあり、わかりやすく構成されていた。また、僕たちは見ることができなかった木の伐採シーンまで挿入されていてなかなかの仕上がりだった。昨日会ったアネットは、美しさを楽しむのみならず、こうやって外国から森林伐採に興味を持って訪ねてくる人がいると、地元の人々の意識向上にすごく役立つと言ってくれた。ささやかながら僕があの公園を訪ねたことで、アネットの活動に少しでも役に立っているといいのだが。

午後7時半、ジャパノイドさんの招待で、先日廃油をいただいた瀬戸すしで夕食となった。僕たちの壮行会ということだ。何から何までお世話になった彼らにご馳走していただくなんて、とても心苦しかったけれど、地球の環境を考え一緒に歩む同志の彼らと、バンクーバー最後の夜を過ごしたかったのでお受けした。「西海岸中探しても、こんなにうまい日本料理屋はないと思う。」という島田さんのいう通り、とてもおいしいお任せ料理に舌鼓をうち、最後にきて彼らから怒涛のごとく流れ出る熱い思いを、精一杯受け止めた。こんなに真剣で熱心な人たちが、地球のために何かせねばと必死になっている。僕自身この旅の大切さをひしひしと感じ、そのメッセージを噛み締めていきたいと思った。ありがとうございます!ジャパノイド。


ここで車の陸揚げとガレージを貸していただいた中古車輸入販売会社「ジャパノイド」について紹介することにしよう。ジャパノイドとは、日本狂という意味。日本車大好きフリークが、他とは違う車を求めてやってくる、ちょっとかわった会社である。カナダ人のデイビッドさんと日本人の朝田さん、島田さんによる共同経営である。

日本の車は性能がよく、小さめで小回りがきく。カナダには、日本の中古車輸入に関して「製造から15年たったもののみ」という規制がある。更にJIS規格は認識されていない。だから、15年以上経った選りすぐりの車を輸入し、カナダの規格にあった改良と整備をほどこし、責任あるアフターサービスを提供するというのがこの会社の特徴。更に、軽自動車やディーゼル車、サイズの小さい車だけを販売するという、徹底したエコ振りだ。最近バイオディーゼルにも興味を持ち始め、いずれは小型の精製機を購入し、納品するディーゼル車に自社製のBDFを入れて、送り出そうと考えているという。

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