ドライフィルター方式

4月5日(土)晴れ ヒューストン

朝9時半デルに電話をかけると、「すでに人が集まっているから早くいらっしゃい。朝食?コーヒーとドーナッツがあるから大丈夫。」との返事だった。デルは、ウェブサイトかヤフーグループのフォーラムで僕らを見つけ、連絡を取ってくれたサポーターだ。このアドベンチャーもカナダを出発して2ヶ月が経った。いろんな人に会い、いろんなネットワークが広がり、以前は僕らのほうから熱心に働きかけなくては見つからなかったサポーターたちが、あちらから連絡を取ってくれることが増えてきた。ありがたいことだ。このデルは、ドライ方式という無水洗浄方式でバイオディーゼルを作っている。夕べ到着して僕たちがたまげてしまった巨大なガレージの一角に、基本的にはアップルシード式の湯沸しタンクを使ったプラントを構えている。

僕らがみただけでも、約90%のバイオディーゼル精製者が、水による洗浄方法を取り入れている。僕らの場合、車に搭載しているということ、砂漠など水のない地域へ出かけたいと考えていることなどから、やはり無水方式をとっている。だから、カリフォルニアのグリーンラインという会社が売っているプラントと同様、彼のシステムにも個人的にとても興味があった。


◆◆ デルの精製方法 ◆◆

彼は一回に30ガロン(114L)の廃油を精製する。

まずはじめにメタノールと水酸化カリウムの混合液の80%を、華氏120度(摂氏60度ほど)廃油に加え1時間反応させる。それを一時間沈殿後、グリセリンを流しだす。

すぐに残りの20%の液を加え更に一時間、終わったら一晩精緻する。

翌朝下にたまったグリセリンを注意深く抜き、バイオディーゼルに残っているメタノールの回復=蒸留作業に入る。約14%のメタノールを回復できるようだ。

それが終わると無水洗浄に入る。彼は、プラスチックのパイプにドリルで穴を開け、十字に組んだものに長い軸用のパイプ(これにも穴があいている)をつけた道具を使う。これに掃除機をつなぎ、送風に切り替えて空気が穴から出るようになっているのだ。

これを蒸留の終わったバイオディーゼルのタンクに入れ、ぶくぶくと泡を出しながら冷ますこと3-4時間。メタノールが完全に抜けたバイオディーゼルでは、残留のグリセリンがすとんと下に落ちる。

だから、この無水洗浄を終えて8時間置くと、グリセリンがみごとに沈殿するという計算なのだそうだ。確かに彼のBDFは、今まで見たどの無水洗浄式の燃料より濁りの少ないものだった。


デルの友人ジョーは、カナダ出身の地質生物学者だ。デルの無水方式を取り入れ、自分なりに工夫して同じガレージでバイオディーゼルを作っている。「オイル会社でどこにオイルがあるか探す仕事をしてきた僕が、実際はバイオディーゼルを自分で作っているなんて、ほんとは皮肉な話だよね。」と苦笑いしながら、彼のシステムを説明してくれた。

デルのような蒸留システムのない彼は、メタノールの回復をあきらめその代わり無水洗浄を8時間に延長する。注目すべきは性能のよい電気ポンプだ。これを使って化学反応に必要な攪拌を起こす。「南部の人たちは、表皮を破るのに時間がかかるけど、一度仲良くなったら本当に親切でいい人ばかりだよ。」という彼は、まるでマーティン家の一員のように扱われている。でも僕らが油に入ってしまった保存剤を取り除きやすいようにバケツを切ってくれたり、大きなごみ箱を率先して捨てにゆく様子を見て、この関係は南部の人たちが親切だから、というだけではないのだろうと思った。

デルはインターネットのドライワッシュBDF生産者グループを主宰しているのだが、このグループには彼の方式を導入してBDFを自宅で作っている人、今プラントを作っている最中の人、そしてこれからぜひ始めたいと勉強を始めた人などが集まっている。今回バイオディーゼルアドベンチャーが来ることで、いつもネット上で情報交換をしている彼らが、今日はデルのガレージに集合した。バスコファイブのデモと共に、デルとジョーが精製をしていたので、これからはじめようと向きには、絶好の講習会となった。こんな風に両方通行のジョイントができると、僕らはとてもうれしい。時間が過ぎるのが早い気がする。


この旅で時間に余裕があるか否かは、すべて持っている廃油とBDFの量にかかっている。あと一ヶ月以内にビザの期限がくる。廃食油を集めて一日一回の燃料精製では間に合わないようになってきた。そこで、昨日デモで作ったバイオディーゼル燃料をデルとジョーに分けてもらうことにした。僕らの廃食油から作ったバイオディーゼル燃料を使って走るというテーマからはそれないこと、様々な廃食油を使ってみる実験でもあるので彼らの作った燃料を使って試してみるのも、このプロジェクトの趣旨でもある。また、彼らのようなグラスルーツの人々の作ったサンプル燃料をいただき、日本に送って燃料の分析も行なっている。

夜は残ったメンバー達と一緒に、テキサスらしい食事を食べられる店に連れて行ってもらった。名物の「チキンフライドステーキ」を注文しろというので、彼らのススメに従った。アメリカ在住のサッチンはそれが何か知っているらしく、「わたしはガンボ!」「ここのオーナーは、ニューオリンズ出身だから、おいしいわよ。」と奥さんたちから太鼓判をもらっていた。名前から想像してチキンなのかと思いきや、それはフライドチキンのような衣をつけて揚げた牛のステーキだった。必ずとは限らないらしいが、チキンの油で揚げてあるとか。確かにこってり気味ではあったものの、一日中精製とおしゃべりに追われて、ろくなものを食べていなかった僕はぺろりとたいらげ、みんなを驚かした。

別れ際に彼らは、「何かあったらどこへでも飛んでゆくから、絶対に電話しろよ!」と涙の出るような言葉を残し、各々のディーゼル車に乗り込むと、フライドポテトの匂いをさせながら去っていった。

廃油回収量 19L
BDF 190L
走行距離 58km
サポーター:デル、イレーン、ダスティン、ジョー、ジェイ&ロビン、ジム、カイル、クリス、ケリー&ウェンディ、ダグ、シェーン、ゲリー&クレア

カテゴリー: north america パーマリンク

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