4月9日(水) 曇り スライデル(LA)→バレー(AL)
南部のまっただ中を走っていて目につくのは湿地帯だ。そういった沼の中に、少しでもよいから入ってみたいと思い車中で調べたところ、通り道からさほど遠くないところに「ゲーターランチ」というツアー会社があることがわかった。電話してみたところ、30分のボートツアーならやっているというので、ちょっと道草してみることにした。
ハイウェイから逸れてでこぼこ道に入る。看板が出ていたから正しいのだろうが、ただの藪に入っていくような感じだ。ラフな(としか言いようのない)建物が見えてきた。隣には沼とボートが2台。30分のツアーを頼むとポールと名乗る30代の男性が、「じゃあ、いつでもいいよ。」とボートの方へ歩き始めた。水草が生える狭い水路をブーンと抜け、時々たくみに方向転換をしながら進んでいった。
ワニが倒れた草のうえにじっとしている。今日は気温が華氏70度(摂氏約20度)なので、彼らには寒すぎるので半分眠ったような状態で、エネルギーを使わないようにしているのだということだ。「アリゲーターは、滅多に人を襲わないんだよ。クロコダイルとは、まったく別の生き物さ。」
残念ながら時間が許さず、スワンプのプチ体験しかできなかったが、あの匂いや野草の白さ、そしてどこまでも深い黒い南部の水の色はぼくの心に焼きついた。
湿原の沼から出てハイウェイに戻る。昨日オイル交換をすることができず気になっていたので、大きめの町を通る度にトヨタのディーラーを探しては電話をかけた。重量が多いことや、ディーゼルエンジンだということを言うと、面倒に思うのか電話でよい返事をもらうことは難しい。しかし、モービルというアラバマ州の町で、やっと「どうぞ、来てください。」との返事をもらえた。
アルバカーキでトヨタのディーラーに行った経験から予想はしていたのだが、やはりここでもたくさんの従業員が寄ってきた。アメリカではトヨタはディーゼル車を市販していないので、珍しいということもあるらしい。ランチを終えて戻ってみると、親切にも洗車までしてくれていてマネージャーのジェームズさんが、「がんばってください。費用はうちで。」と申し出てくれた。ありがたい。
テキサスを越えてから、少し先を急いでいる。今夜も宿についてすぐ、燃料の精製に入った。今夜つくり始めなければ、あさって走る燃料はない。できた量より多く使ったり使い方を誤れば、燃料は予定より早くなくなってしまう。そんなペースで旅をするのにも慣れてきた・・・。僕たちは「自給自足」を身をもって感じ、毎日学びの連続だ。
この晩ちょっとした事件が起こった。
夜も更けた午前2時過ぎ、化学反応が終わって一息つき外へ出た。部屋のすぐ前に車が停めてあるので、沈殿のはじまったプラントを眺めながらとりとめのないことを考えていた。夕方この町について安宿を探している時、トラックに乗った年配の男性が急に車を停め、話しかけてきた。「バイオディーゼルは違法だって知ってるか?」と言ったように聞こえてギョッとしたのだが、よく話を聞いてみるとそれは冗談で、彼もまたバイオディーゼルを作っているのだとわかった。「気をつけないと、文句をつける人もいるぞ。」なんて忠告までくれた。
夕食を頬張りながらそのことを思い出し、他の二人と「そうは言っても、このあたりは保守的なひとが多い。やたらと後ろを開けてプラントを見せるのも、考えものかもね。違法なことは何ひとつしていないけれど、難癖つけられたら理解してもらうのに時間がかかるかも・・・。」なんて話していた。
そんなことを考えつつ、歯磨きをしながら「反応も終わったし、そろそろ機械をしまったほうが・・・。」と思った矢先のことだ。左右前方からこちらに向かってまぶしい光がやってきた。それは警察の車のサイレンの光だった。「な、何?」急いでタツヤの戸を叩くが、シャワーを浴びているらしく返事がない。サッチンへ電話して「とにかくすぐ来て。」とだけ言って、元いた場所に戻った。
がっちりした体つきの警官二人が現れ、こちらへ歩いて来る。彼らはバイオディーゼルについて知識があるだろうか。日本人に偏見を持っているなんてことはないだろうが、発音がままならぬ外人の僕の英語を理解してくれるだろうか、それにしてもなぜこんなモーテルの裏手の駐車場にいる僕らを見つけたんだろう? いや、ここはアメリカだ。昔インドやアラブの国で、問題に巻き込まれたときとは違う。話せばわかってくれるさ・・・。
ところが光から抜け近づいてきた警官たちは、よく見ると片手にカメラを持ちニコニコしている。「いやぁ、記念写真を撮らせてもらいたくてね。」「さっきパトロールしていて、君たちの車を見かけたのさ。」「ウェブサイトを見せてもらったぞ。面白そうだから、戻ってきたんだ。」
その後更に彼らからの情報を聞きつけた、他の町の警官たちもやってきて、記念写真の撮影会となってしまった。結局興奮した彼らの相手をして、午前3時やっと床につくことができた。世の中、何があるかわからないね。
廃油回収量 0L
走行距離 593km
反応 1回
オイル交換 (オイルのみ)